Coq/SSReflect には bigop というライブラリが入っていて、 総和の Σ などを表現できる。
\big[add/u]_(a <= i < b | P i) F i と書くと、 a 以上 b 未満の i について、P i が真になるものに限定して、F i を add する (u は単位元で、b < a なら結果は u になる)
「P i が真になるものに限定して」という条件を無視すれば、 学校で習ったシグマと同じである。 TeX で書くと \sum_{i=a}^{b} Fi である。
関数型言語的な表現としては、foldr, map, filter, index_iota で記述できる。 \big[add/u]_(a <= i < b | P i) F i = foldr add u (map F (filter P (index_iota a b))) である。 (index_iota a b は、a 以上 b 未満の自然数のリストを返す)
From mathcomp Require Import all_ssreflect. Goal forall (T : Type) (add : T -> T -> T) u a b P F, \big[add/u]_(a <= i < b | P i) F i = foldr add u (map F (filter P (index_iota a b))). (* foldr add u [seq F i | i <- index_iota a b & P i] *) Proof. move=> T add u a b P F. by rewrite foldrE big_map_id big_filter. Qed.
ちなみに、上記は右辺を左辺に (foldr ... を \big ... に) 書き換えて証明しているが、 逆に左辺を右辺に書き換えて証明することもできなくはない。
Goal forall (T : Type) (add : T -> T -> T) u a b P F, \big[add/u]_(a <= i < b | P i) F i = foldr add u (map F (filter P (index_iota a b))). (* foldr add u [seq F i | i <- index_iota a b & P i] *) Proof. move=> T add u a b P F. rewrite -big_filter. change (fun i : nat => BigBody i add true (F i)) with (fun i : nat => BigBody i add (predT (F i)) (F i)). by rewrite -big_map_id -foldrE. Qed.
ここで、big_map_id は条件のところが P (F i) という形でないと (右から左に) 書き換えられないので、ゴールを change で変形している。 これはかなり面倒くさいので、foldr 側に変形してから証明するのは厄介であり、 \big 側で証明するのが無難だと思った。
さて、範囲を a <= i < b という形式で与えたので、index_iota a b が使われているが、 かわりに任意のリストを与えることもできて、それは \big[add/u]_(i <- r | P i) F i と書く。
Goal forall (T : Type) (add : T -> T -> T) u (r : seq T) P F, \big[add/u]_(i <- r | P i) F i = foldr add u (map F (filter P r)). (* foldr add u [seq F i | i <- r & P i] *) Proof. move=> T add u r P F. by rewrite foldrE big_map_id big_filter. Qed.
こうすれば index_iota は使わないことができるが、map と filter (相当) の機能は残っている。 map は数学のシグマでも相当する機能があるのでそういうものだろうが、filter はどうなのだろうか。 もちろん、filter に与える述語として、常に真を返す述語を与えれば、filter は無視できるのだが、 リストを与える形式であれば利用者側で filter を呼び出せるので、そもそも不要ともいえる。 なんでそんな機能を組み込んだのだろうか。
というわけで疑問は、なんで「P i が真になるものに限定して」という filter の機能が入っているのだろうか、ということである。 学校で習ったシグマにはそういう機能はなかったと思うのだが。
検索すると、bigop の論文が見つかった: Canonical Big Operators
しかし、filter の機能をつけたということは書いてあるが、なぜつけたのかは書いていないようだ。 ただ、例として \big[addn/0]_(i <= n | even i) i^2 というのを書いてあるので、連続した範囲でないものを扱いたいのだろうという気はする。
数学では、そういう書き方をするのだろうか。 Wikipedia:Summation をみると、 「一般化された記法がよく使われる (Generalizations of this notation are often used)」 と書いてある。 シグマの下に 0<=k<100, x∈S, d|n と書く例が出ている。 0<=k<100 や x∈S は、よくある書き方だと思う。 最後の d|n は、d が n を割り切る (n が d の倍数) という条件である。 これはちょっと見慣れないが、シグマの下には任意の命題を記述できて、その命題を成り立たせる値それぞれについて加算すると思えば、0<=k<100 や x∈S と同種の書き方と考えられるか。
あと、Wikipedia には、Concrete Mathematics: A Foundation for Computer Science に Chapter 2: Sums という章があるという脚注がある。 一章まるごと総和の話なのだろうか。
filter の機能が役に立つのか、ちょっと考えてみよう。 たとえば、同じ総和で、奇数という条件がついたものと、偶数という条件がついたものを加算すると、条件がついていない総和と等しくなるだろう。 証明してみよう。 なお、SSReflect が標準で提供しているのは偶数で真になる even じゃなくて、奇数で真になる odd なので、そっちを使う。
Goal forall a b F, \sum_(a <= i < b | odd i) F i + \sum_(a <= i < b | ~~ odd i) F i = \sum_(a <= i < b) F i. Proof. move=> a b F. elim: b a. move=> a. by do 3 (rewrite big_geq; last by []). move=> b IH a. case: (boolP (a <= b)); last first. rewrite -ltnNge => ltn_ba. by do 3 (rewrite big_geq; last by []). move=> leq_ab. rewrite [\sum_(a <= i < b.+1 | odd i) F i](@big_cat_nat_idem _ _ _ _ _ _ b) => //; [|exact addnA|exact addnC]. rewrite [in \sum_(b <= i < b.+1 | odd i) F i]/index_iota subSnn /=. rewrite [in \sum_(i <- [:: b] | odd i) F i]unlock /= addn0. rewrite [\sum_(a <= i < b.+1 | ~~ odd i) F i](@big_cat_nat_idem _ _ _ _ _ _ b) => //; [|exact addnA|exact addnC]. rewrite [in \sum_(b <= i < b.+1 | ~~ odd i) F i]/index_iota subSnn /=. rewrite [in \sum_(i <- [:: b] | ~~ odd i) F i]unlock /= addn0. rewrite big_nat_recr /=; last by []. rewrite -IH. by case: (odd b) => /=; ring. Qed.
うぅむ、予想外に面倒くさい。 そもそも、filter の条件の論理和に関する補題が見当たらないので、帰納法を使う必要があるし、IH を使えるようにする書き換えも面倒くさい。
でも、書き換えが面倒くさいのは、 a <= i < b という形で範囲を与えるからで、一般化してリストを与えればもっと簡単ではないか、ということでやりなおし。 (index_iota a b という特定の形のリストじゃなくて任意のリストを扱う、ということ)
Goal forall r F, \sum_(i <- r | odd i) F i + \sum_(i <- r | ~~ odd i) F i = \sum_(i <- r) F i. Proof. move=> r F. elim: r. by rewrite 3!big_nil. move=> x r IH. rewrite 3!big_cons -IH. by case: (odd x) => /=; ring. Qed.
お、簡単になった。
せっかくなので、対象を自然数に限定しない一般化をしてみよう。 fold に与える演算が associative, commutative でないといけないし、単位元も必要なので、 そういう証明がついている演算として、 T -> T -> T じゃなくて、Monoid.com_law idx を使う (idx が単位元である)
Goal forall (T : Type) (idx : T) (op : Monoid.com_law idx) (P : pred T) F r, op (\big[op/idx]_(j <- r | P j) F j) (\big[op/idx]_(j <- r | ~~ P j) F j) = \big[op/idx]_(j <- r) F j. Proof. move=> T idx op P F. elim. rewrite 3!big_nil. by rewrite Monoid.mul1m. move=> x r IH. rewrite 3!big_cons -IH. case: (P x) => /=. by rewrite Monoid.mulmA. rewrite Monoid.mulmA. rewrite [op _ (F x)]Monoid.mulmC. by rewrite Monoid.mulmA. Qed.
最後の部分は、ring を使えなくて、変形を自分でやる必要があった。 Monoid の場合の rewrite は Monoid.mulmA とかを使えるのだな。初めて使った。
P j と ~~ P j というのも具体的すぎるので、単に異なる述語 P, Q と一般化してみよう。 この場合、P j と Q j が両方とも真になると成り立たないので、 述語の intersection が空ということで、predI P Q =1 pred0 という前提を追加する。 これ以上の一般化は思いつかないので、big_filter_or と名前をつけることにする。
あと、何回も Monoid. と書くのは面倒くさいので Import しよう。
Import Monoid. Lemma big_filter_or (T : Type) (idx : T) (op : Monoid.com_law idx) (P Q : pred T) F r: predI P Q =1 pred0 -> op (\big[op/idx]_(j <- r | P j) F j) (\big[op/idx]_(j <- r | Q j) F j) = \big[op/idx]_(j <- r | predU P Q j) F j. Proof. move=> PQ0. elim: r. rewrite 3!big_nil. by rewrite mul1m. move=> x r IH. rewrite 3!big_cons -IH. move: (PQ0 x) => /=. case: (P x); case: (Q x) => //= _. by rewrite mulmA. by rewrite mulmA [op _ (F x)]mulmC mulmA. Qed.
まぁ、ほぼ同じくらいの証明になった。Import したぶん短くなっているかな。
最後の部分は、P x と Q x の両方で場合分けするので、4種類になるのだが、 2種類は自明に証明されるので、手動でやらないといけないのは残り 2つで、 それらは P j と ~~ P j のときと同じ形だった。
big_filter_or を使って、最初の、奇数限定と偶数限定を足すと無条件になる、というのを証明してみる。
Goal forall a b F, \sum_(a <= i < b | odd i) F i + \sum_(a <= i < b | ~~ odd i) F i = \sum_(a <= i < b) F i. Proof. move=> a b F. rewrite big_filter_or /=. under eq_bigl => x. rewrite orbN. over. by []. move=> x /=. by rewrite andbN. Qed.
うまく証明できた。
証明の中で、 \sum_(a <= j < b | odd j || ~~ odd j) F j の中の odd j || ~~ odd j を書き換えるのに under tactic を使っている。
odd j || ~~ odd j を true に書き換えるのは orbN でいいのだが、 j はゴールの中で束縛されているので、そのままでは書き換えられない。
この場合は、under tactic を使うと 中身を書き換えられる。 (補題が必要になるので、ここでは eq_bigl を使っている) under tactic はサブゴールを作ってくれて、ユーザがサブゴールを書き換えた後に over とすると、書き換えた結果を元のゴールに反映してくれる。 サブゴールは証明しないというのがなかなか奇妙というか面白い。
under tactic には Interactive mode と One-liner mode があって、上は変形を見ながらやりたかったので Interactive mode を使っているが、 まぁ、変形は rewrite orbN だけなので、One-liner mode で十分で、そうすると以下のように書ける。
Goal forall a b F, \sum_(a <= i < b | odd i) F i + \sum_(a <= i < b | ~~ odd i) F i = \sum_(a <= i < b) F i. Proof. move=> a b F. rewrite big_filter_or /=. by under eq_bigl => x do rewrite orbN. move=> x /=. by rewrite andbN. Qed.
短くてよろしい。
なお、今回の場合は、under tactic を使わなくても、apply eq_bigl だけでも十分ではあった。
Goal forall a b F, \sum_(a <= i < b | odd i) F i + \sum_(a <= i < b | ~~ odd i) F i = \sum_(a <= i < b) F i. Proof. move=> a b F. rewrite big_filter_or /=. apply eq_bigl => x /=. by rewrite orbN. move=> x /=. by rewrite andbN. Qed.
under tactic が便利なのは、\sum みたいなのが、部分式に現れるときとか、 そのまま apply eq_bigl とはできないときかな。
Goal forall a b F, (\sum_(a <= i < b | odd i) F i + \sum_(a <= i < b | ~~ odd i) F i) + 3 = (\sum_(a <= i < b) F i) + 3. Proof. move=> a b F. rewrite big_filter_or /=. by under eq_bigl => x do rewrite orbN. move=> x /=. by rewrite andbN. Qed.
ここでは、+ 3 というのがついているので、apply eq_bigl はできなくて、 under eq_bigl を使っている。
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